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461. ピレスパ®開発とステロイド治療との決別

ニンテダニブ(オフェブ®)については、認可される前から注目していたので、開発ストーリーがある程度分かっていたが、ピルフェニドン(ピレスパ®、Esbriet®)の開発ストーリーを吾妻安良太教授が、週刊日本医事新報 4927号(2018年09月29日発行) にhttps://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?page=1&id=10777 語っておられた。一部無料で読むことができたので、ご紹介したいと思う。

『特発性肺線維症(IPF)は特発性間質性肺炎(IIPs)の中でも最も予後不良で,私たち難病に取り組む者は,この疾患の前に屈辱的な経験をしてきました。

『IPFには似て非なる疾患がたくさんあるため,これまで分類学的な議論に終始してきましたが,少しずつマネージメントに関する議論も始まってきています。具体的に言うと,治療戦略が「ステロイドと免疫抑制薬による症状緩和」から「抗線維化薬による線維化の進行抑制」に変化してきています。ただし,まだ治療法が確立されているわけではありません。病因論的には,粉塵曝露,膠原病,肉芽腫性疾患,ごく稀な血管炎が主な原因として挙げられます。しかし原因不明の場合が多く,いまだに分類しきれない部分も残っています。

『初期の段階で見つかることはほとんどなく,自覚症状や明らかな症状が出るまで,潜在性の状態が長く続いているものと推測されます。わが国では,CT検診などで網状影が少し見つかると病院に紹介されることもありますが,稀なケースと言えます*。

吾妻表

『IPFの進行を抑える薬は2種類あります。その1つがピルフェニドン(ピレスパ®)で,2000年の初め頃から開発が始まりました。
米国胸部学会(ATS)より,ピルフェニドンを使用することでプラセボに比べて全死因死亡率が有意に低下したという報告がされています。
また,2016年に開催された欧州呼吸器学会(ERS)では,ピルフェニドンに関する1年間の対照試験を実施後,プラセボ群にも希望者全員に実薬を投与してフォローアップする“extension study”を行ったところ,努力性肺活量(FVC)70%程度の患者に予後の改善がみられたと報告されています。
光線過敏症,食欲不振,胃部不快感など,ピルフェニドンの有害事象は少なくありません。有害事象のために治療を継続できず脱落する患者が,5人に1人程度います。ピルフェニドンは進行速度を緩やかにしますが,100%満足のいく治療薬とは言いがたいのが実情です。

『わが国で肺線維症の治療薬としてピルフェニドンが開発される前の歴史を紐解くと,「日刊薬業」に東京女子医科大学の太田和夫先生が,腹膜硬化症のモデルで研究成果を投稿しています。また,腎硬化症のモデルとしては,後に黒川 清先生も米国のデータをそのまま鵜呑みにするのではなく,検証するという姿勢で投薬後の経過を追っています。試験データとしては,腹膜硬化症に対する効果の再現実験をしていたことを,後に聞きました。これが1996年頃のことです。

『しかし検討の結果,治療法がない肺線維症のほうが有意義であるという結論に至りました。ブレオマイシンによる薬剤性肺障害で起きる症状の進行抑制に有効である可能性がありそうだということで,IPFにも有効ではないかという発想が生まれたわけです。

『第2相試験: 臨床試験を実施するにあたっての問題は,「主要評価項目を何にするか」でした。
議論を重ねた結果,「労作時の酸素飽和度低下を観察してみよう」ということになり,主要評価項目は,「トレッドミル6分間定速歩行負荷試験による酸素飽和度の最低値の変化」になりました。
試験結果を解析すると,残念ながらピルフェニドン投与群とプラセボ群の間に有意差はみられませんでした。「6分間の定速歩行に伴う酸素飽和度の最低値の変化」という主要評価項目は評価方法が適切ではなかったと言えます。
ただ,「6分間歩行を完遂できた症例」 に限定して解析を進めると,プラセボ群に比べて有意なFVCの低下抑制効果がみられました。
また,急性増悪がプラセボ群に偏ってみられたため,急性増悪を抑制できる薬ではないか,という発見もありました。

『第3相試験では,主要評価項目は「肺活量(VC)の変化」に変更しました。適正用量の確認も兼ねていたので,高用量(1800mg/日)群,低用量(1200mg/日)群,プラセボ群の3群に割り付けました。
結果は高用量群,低用量群ともにプラセボ群よりも有意なVC低下抑制効果がみられました。
無増悪生存期間も,ピルフェニドン投与群のほうがプラセボ群に比べて有意な改善効果がみられ,さらに高用量群のほうが低用量群よりも有意な延長効果がみられました。
こうして,わが国では2008年末にピルフェニドンの製造承認が取得できました。

『ピルフェニドンが登場する以前のIPFの治療はもっぱらステロイドと免疫抑制薬によって行われていました。
しかし,2012年に欧米で行われた臨床試験によってその地位は一変しました。ステロイド+免疫抑制薬(アザチオプリン)+N-アセチルシステインの併用群,N-アセチルシステイン単独群,プラセボ群の3群による無作為化比較試験だったのですが,中間解析の時点で「併用群はプラセボ群に比べて死亡数,入院数,急性増悪頻度において有意に高い」という驚くべき結果が出て,試験は中止となりました。
これを受け,ステロイド,免疫抑制薬は単剤,併用ともに“使用しないことを強く推奨する”という言葉が国際ガイドラインに記載されることになったのです。』

治療方法の常識は変わる。以前は当たり前だった治療が、逆に患者の利益を害してきた歴史があった。
ピレスパはそのパラダイムシフトを起こした薬として、実に画期的な新薬だったわけだ。
IPFだけでなく、広く進行性の間質性肺炎患者に門戸が広げられることを望んでやまない。

なおこの治療のパラダイムシフトについては、記事23. IPF治療ガイドライン http://kinseym.blog.fc2.com/blog-entry-23.html で2015年に紹介している。


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*私はすい炎のため腹部CTで網状影が見つかった、稀なケースに該当します
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コメント

No title

こんにちは 私は膠原系のNSIPとされていて、ステロイドを続けていますが。これがどのような効果があるものか、と時々思います。ピルフェニドンやオフェブにも関心を持ちますが、まだ保険適応にはなっていないのでしたかね? 一定期間の試用にも関心がありますが、薬を手に入れるのが難しそうです。

Re: No title

全身強皮症の間質性肺炎の場合に限定して、抗線維化薬の治験や限定的な試用を行っているようです。
通常の膠原系のNSIPの場合、残念ながらステロイドと免疫抑制剤が保険適用・標準治療です。
しかし、Kenさんが治療の効果なく、病状の進行がある場合、主治医のほうで何らかの方法を考えて下さるかもしれません。
ご相談されてみては?

ところでKenさん、肝機能はどうですか?メトホルミンは再開できましたか?

No title

ヒレスパの効用は治験のやり方によって効果が見え隠れするといった程度の心もとないものでしかありません。膠原病性のものであれば、ステロイドパルスの効果は歴然としていますから、作用機序からしてもステロイドが標準治療になるのは当然でしょう。特発性のものについては、ヒレスパよりも、もう一段進んだ薬剤に期待するしかないのが現実でしょうね。

No title

 メトホルミンですね、正確なところはわからないのですが、中止したら肝機能がほぼ正常範囲に戻りました。それは事実です。その前は、GOTで50ぐらいだったでしょうか。それほどの数字ではありませんが。

 メトホルミンが原因かどうかはわからないのですが、私としてはとてもがっかりしました。
 素人判断では糖の代謝に影響があったのでしょうか。私は愛酒家(こう書くと品がいい‥?)で酒も毎日飲みますので、肝機能数字は正常範囲の高めです。
 このところ咳が出るので、何らかの対応を考えたいのですが。

Re: No title

おらさん
お体、大丈夫ですか?今回のコメントも看護師さんに隠れて書いて頂いたのでしょうか。
そんな中、コメントありがとうございます。

でも、そうとも言い切れない研究成果や、見解も出てきているのですよ。
これについては長くなるので、また別記事に仕立てたいと思います。

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プロフィール

ゆりりん

Author:ゆりりん
1962年生まれの56歳、京阪神に生息。
2014年12月末にIPFの告知を受けてから、経過と探求の日々を綴っています